東京地方裁判所 昭和62年(ワ)7399号 判決 1989年4月27日
主文
一 被告らは、原告に対し各自一一一二万六四三〇円及びこれに対する昭和六二年五月二五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のそのほかの請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
四 この判決は、原告の勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
五 被告らが金一二〇〇万円の担保を供するときは、右の仮執行を免れることができる。
事実
一 原告の請求の趣旨
1 被告らは、原告に対して各自金一一二三万円及びこれに対する昭和六二年五月二五日以降支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言
二 原告の請求原因
(一) 原告は、昭和六二年四月二一日被告ハンド及び被告ランドを共同の貸し主として金員を借り入れた。
(二) 右の貸借は、契約上の貸借金額は一億一〇〇〇万円であるが、原告は次の通り、被告らから差し引かれた。
天引き利息 貸借期間三カ月分八五〇万円
登記の費用名目であるが過払いの分八〇万円
手数料 五五〇万円
(三) 利息制限法を適用して、右の差し引かれた金額合計一四八〇万円を利息とみなし、利息制限法二条に従い原告の受領額を元本として三カ月分の制限法の利率年一割五分の割合による利息を計算すると三五七万円となる。そうすると、これを超過する利息一一二三万円は、元本一億一〇〇〇万円に充当すべきことになり、充当後の元本は、九八七七万円となる。
(四) 原告は、昭和六二年五月二五日被告らに一億一〇〇〇万円を支払った。
(五) 従って、原告は一一二三万円を過払いしていることになるが、被告らは共同の貸し主であるから、連帯してこの不当利得金全額一一二三万円とその利息を支払う義務がある。
(六) 仮に、分割債務となるとすると、原告は、被告らに右の半額五六一万五〇〇〇円とその利息の支払いを請求する。
三 請求原因に対する被告の認否
(一) 請求原因(一)の事実を否認する。昭和六二年四月二〇日の契約は、原告所有の別紙物件目録記載の不動産(本件不動産という。)について原告と被告ランドの間でした買い戻し条件付の売買契約で、代金は、一億一〇〇〇万円の約束であった。被告ランドと被告ハンドとは、全く別異の法人である。
(二) 請求原因(二)の事実を否認する。被告ランドは、右の代金をすべて支払った。
(三) 被告ランドは、右の売買契約の翌日本件不動産を代金額は右と同額で被告ハンドに売却した。原告は、被告ハンドに対し昭和六二年五月二五日買い戻し権を行使した。
四 証拠の関係は、記録中の証拠関係目録の通り。
理由
一 まず、売買、消費貸借のどちらであったかを判断する。
被告らは、被告ランドが原告から本件不動産を買い受け被告ハンドに転売したと主張し、その証拠として、乙一及び一〇の売買契約書及び被告ランドの代表者松本及び被告ハンドの代表者浅見の尋問の結果をあげる。
しかし、次の理由で右の証拠は採用できない。
1 後に認定する通り、原告へ交付された金員は、被告ハンドから直接原告へ交付されており、その返済は、被告ハンドに直接されている。
2 後に認定する通り、被告らは、利息などを取得しており、売買代金全額を原告に支払ったとして乙二及び乙三の領収書が作成されているのは、表面上のことにすぎない。
3 被告らの主張するところによれば、被告ランドは、買い戻し条件がついている物件を、第三者である被告ハンドに転売したというのであるが、そのようなことをすれば、借主である原告は、貸金を返済しても担保は戻ってこない結果となる恐れがあり、そのようなことが借主である原告の承諾のもとに行なわれたとは考え難いのであって(被告ランド代表者は原告の承諾を得ていなかったことを自認している(四〇項))、被告らの提出する売買契約書は、担保流れの場合、本件不動産を借主である原告に対する清算金の支払い無しに取り上げる手段として、作意的に作成された疑いが濃い。
4 被告ハンドの代表者浅見は、原告が、既に本件不動産について、一億四〇〇〇万円で売却することが可能な売却先を見つけてあるが、多数の抵当権などの登記があるため売却に支障が生じている、被告ハンドにおいて抱いてくれれば、売却が実現した場合得た利益を折半して支払うので、買い受けて欲しいといわれ、これに応じたもので、金銭を貸し付けたものでないと述べる(二六から二九項、六四から六六項)。しかし、浅見の述べる契約内容は、その契約書である乙一〇には記載されていないのであって(同人は、このことを自認しているが(一四九項)、その理由について、人を納得させ得るような説明をしていない。)、真実そのような合意が成立したものと認めることはできない。また、浅見の述べるところによれば(一五七及び一五八項)、原告は、売却した物件について売却後も所有権者として振舞い、その意思に基づき、自由に処分することができる地位にあったというのであるから、浅見の述べる内容は、結局、被告ハンドは原告に、本件不動産を担保として、その売却が実現するまでのつなぎの資金を融通してやったということに帰するのであり、売買であったという同人の供述は、採用することはできない。
そして、右に指摘したところと原告の尋問の結果(一、三項)及びこれにより成立の認められる甲六によれば、本件が消費貸借であり、その契約内容は、次の通りであったものと認められる。
貸金の額 一億一〇〇〇万円
貸付期間 昭和六二年四月二〇日から同年七月二〇日まで
三カ月間の利息 八五〇万円(年利三〇%強)
担保 本件不動産
手数料 五五〇万円(利息と合わせると、年利五〇%強)
二 次に、被告らが共同の貸し主であったかどうかを判断する。証拠によれば、次の事実を認めることができる。
(その認定に供した証拠は、認定事実の次に掲げる。書証の成立についての説示のないものは、成立に争いのない証拠である。)
1 被告ランドの営業課長田中道輔は、表向きは被告ランドとの取引だが、実際は、被告ハンドから金がでると説明していた。
証拠
甲二の二
原告の尋問の結果(一、三四、六二項)
2 被告ランドは、売買契約の形式にして欲しいといい、買い主被告ランドの契約書と買い主空白の契約書の二通を作成した。
証拠
原告の尋問の結果(二、二八、三六項)
3 ところが被告ハンドを買い主とする昭和六二年四月二一日売買を原因とする同日付け所有権移転登記がされた。
証拠
甲三
甲四
4 被告ランドから原告へのファックス送信文書(昭和六二年四月二〇日の送信日付有り)があり、それには貸金の計算が記載されている。
証拠
甲六(前出)
原告の尋問の結果(三項)
5 被告ランドから原告への右の送信文書では、五五〇万円は、手数料と表示されている。ところが、甲二の一の領収書では受け取るものを田中道輔と表示している。田中道輔は、この金を被告ランドで分けるといっていた。
証拠
甲二の一
原告の尋問の結果(六八項)
6 田中道輔は、被告ランドの事務所において被告ランドの営業課長の肩書で行動していたものであり、田中道輔が被告らの事務所とは別の場所で被告らと独立して金融の紹介業務をしていたものではない(なお、原告の供述するところによれば、原告の本件訴訟提起後も田中は松本らとともに行動している模様であって、原告に対して本件の訴えを取り下げるよう脅迫的な電話を架けてきたということである。)。なお、田中道輔が業として金銭の貸借の媒介をしていたとすれば出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締り等に関する法律七条一項により大蔵大臣に届け出なければならない(同法一二条に罰則有り。)が、そのような届出をしていたことの主張立証はない。
証拠
甲二の二
原告の尋問の結果(一、三、一一、一三、一七、二一、二二項)
7 貸金の一部は、昭和六二年四月二一日荒川寅男こと金寅男から渡された。同人は、被告ランドの取締役に名を連ねているが、被告ハンドの取締役常務の名刺も使っており、田中から実際の経営者であるとの説明があった。原告は、昭和六二年五月二五日貸金を被告ハンドの荒川に手渡して返済した。その前に、被告ランドの代表者である松本と前出の田中は、荒川のことを社長と呼んでいた。
証拠
甲一
乙一一
原告の尋問の結果(九、一〇、五〇項)
8 原告は、貸金の一部を被告ハンドの代表者である浅見からも受け取った。
その際、浅見は、早期に返済するよう要求していた。
証拠
乙一二
被告ハンド代表者浅見掌吉の尋問の結果(一一八項)
原告の尋問の結果(一一、五七、六〇項)
9 貸金の一部五二〇万円が未だ支払われないとき、被告ランドの社長の松本は、原告が貸金の返済を怠ったときに原告の明渡を確保するために、武蔵野簡易裁判所に即決和解の申し立てをした。そのときの申し立て人は、被告ランドであったが、裁判所は、売買の登記名義人が被告ハンドであるので和解は成立させられないといい、松本は、それでは、被告ハンドの名で後日申し立てますと説明していた。
証拠
甲七
乙四
乙五
乙八
乙九
原告の尋問の結果(一三項)
10 被告ランドは、貸金の担保にとったものを、その翌日被告ハンドに売却する書類を作成した。しかし、その時点ではいまだ原告に貸金の大部分を交付しておらず、その後は、貸金の交付自体が前述のように被告ハンドから直接原告にされ、また原告から貸金の返済を受領していたのも被告ハンドの関係者であった。
証拠
弁論の全趣旨
11 被告ランドには、現在財産らしいものがない。
証拠
被告ランド代表者尋問の結果(二八項)
以上の通りに認定することができ、この認定に反する被告ランドの代表者及び被告ハンドの代表者の尋問の結果は、右の認定に供した証拠に照らして、採用できず、そのほかに右の認定を左右するに足る証拠はない。
そして、右に認定したところと一の3に指摘したところとを併せて考えると、本件の消費貸借は、原告が供述する(八、九、一五、一六項)通り、被告らが共同でしたものと認めることができ、この認定を動かすべき証拠はない。
三 次に、原告が差し引かれた金額について判断する。
後に掲げる証拠によれば、原告が差し引かれた金額は、次の通りであったものと認められる。
三ケ月間の利息 八五〇万円
手数料 五五〇万円
登記費用名目の過払い額 七〇万円
証拠
甲六
原告の尋問の結果(三項)
右の金額は、利息制限法三条により、すべて利息とみなされ、その合計金額は、一四七〇万円となる。
他方、原告の受領額である金九五三〇万円を元本として、利息制限法二条の規定に基づき利息制限法一条の制限利息の額を計算すると、三カ月間で三五七万三七五〇円となるから、前記の一四七〇万円のうち、右の制限利息の額を超える金額一一一二万六四三〇円は、元本に充当されることとなる。したがって、原告は、一億一〇〇〇万円から、右の金額を差し引いた九八八七万三五七〇円を弁済すれば足りたものであるが、昭和六二年五月二五日一億一〇〇〇万円を弁済したものである(被告らは、このような弁済があったことを明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。)。
そうすると、原告は、結局一一一二万六四三〇円を過払いしたこととなる。
四 ところで、被告らは、共同で本件の貸付をしたものであり、前記二に認定したところからみると、原告も被告らに対して、そのいずれからの請求であっても、全額について支払う考えのもとに本件の貸付を受けたものと考えられる。そうとすると、被告らの原告に対する貸金債権は、分割債権ではなく、当事者間の合意に基づく不可分債権であったものと認められる。そのように被告らの債権が不可分とされることとの権衡を考え、また、それに加えて、前記二に認定したところに現われているように、被告らが資金関係や人的関係において密接であることを考慮にいれると、原告の被告らに対する過払い分の返還請求権についても、分割債務ではなく、その全部について被告らが各自支払い義務がある不可分債務であると解するのが相当である。
そうであるとすると、被告らは、原告に対して各自金一一一二万六四三〇円とこれに対する過払いが生じた日である昭和六二年五月二五日から支払い済みまで法定利率年五分による利息を付して支払うべき義務がある。
五 そこで、原告の請求は右の限度でこれを認容し、そのほかの請求は棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行について同法一九六条を適用する。
なお、本件については、訴えが起こされてから既に相当の時間が経過していることに鑑み、仮執行の宣言をしたが、被告らが控訴しても、本件の認容額に控訴審の判決がなされるまでに生ずる利息の額を付加した金額(当裁判所はこれを約一三三五万円であると算定した。)を基として、原告の敗訴可能性と本件の事案を考慮にいれた相当な額の担保を積ませれば、被告らに仮執行を免れさせても、原告の利益を著しく害することとはならないと考えられるので、このような担保を条件とする仮執行の免脱の宣言をすることとする。
よって、主文の通りに判決する。
(裁判官 淺生重機)